しずおかのひみつ探し「の」編
※諸事情により記事の日付が2014年と表示されていますが、実際は2022年2月22日の記事です。
そのなんとも可愛らしい看板は、駒形通りにある。
今はもう市内で2軒しか残っていない貴重な銭湯の1つ「桜湯」の向かい。普段はほとんどシャッターが閉まっているが、構えには擦れた「くだもの」という特徴的な文字が残っている。目をこらせば横には微かに「前田果実店」という文字も見えてくる。
正直に言おう。
静岡の商店街をたくさん歩いたけれど、やはりこの「の」を超えるものは現れなかった。
「の」の文字を拝借したい。そのことを伝えるため、来る日も来る日も立ち寄り、シャッターが開くタイミングを待った。ある時は足元10cmだけ、またある時は腰の高さくらいまで開いていることもあるが、声をかけても全く反応はない。
10日ほど通っただろうか。ある日ついにシャッターのフルオープンに遭遇した。かなりレアである。もう大興奮である。
しかし、人の気配はない。
いつものように、おそるおそる呼びかける。
「ごめんくださーい。」
ひっそりとしたお店の奥。
何度か呼びかけるが静かである。
いやでも誰かいるはずだ。何せフルオープンなのだから。こんなチャンスを逃したくない。強い気持ちで、そのままシャッターの横で待つ私。犬を散歩中の人、ジョギング中の人、駒形通の休日の朝は穏やかに過ぎていく・・・とその時、奥から人が!!
カメラをぶら下げた私を不思議そうに見る男性。慌てて自己紹介とお願いごとをできる限り丁寧に伝えると「ああ別に構わないですよ」とぽつり。
聞けばご両親が10年ほど前までされていた果物店だったらしい。くだものの文字は誰が書いたかわからないとのこと。「今は人通りも少なくなっちゃったからね」淡々と、でも少し寂しそうに話す男性。ふと背後に目をやるとシャッターの奥にはもう一つ看板が掲げられていた。表の「くだもの」とは雰囲気が違い、カラフルで新鮮な果物が描かれている。
「きれいですね」思わず伝えると男性も「奥の看板はきれいだねってよく褒められたみたい」と初めて笑顔のような表情になった。気のせいかもしれないけど。
その後すぐに、用事があると言って男性は自転車でどこかへ行ってしまった。ぽつんと残された私は、ようやく会えたことに安堵し近所の美味しいパン屋で朝食を買ったのだった。
駒形通の朝は早い。
#駒形通 #しずおかのひみつ