LIVE TODAY 〜映画館のある街

2011年9月24日、翌日に静岡小劇場の閉館を控えた日。5回目のグリーンドリンクス静岡として、映画館のメモリアルイベント「LIVE TODAY」を開催しました。映画館のある街を記憶と記録に残しながら、これからのことを考えるイベントです。

場所は、静岡市七間町周辺の映画館街エリア。「静活ピカデリー」の屋上には昭和30年代に建てられた小さなプラネタリウムの跡がひっそりと残っていました。年内には取り壊しの始まるその場所を1日限りのミュージアムにしようと、映画館や街の歴史に関わる資料や、元看板職人さんの描いた俳優のポートレートを展示。LIFEwithCAMERAの皆さんが撮影した「映画館のある風景」や皆さんに読んでほしかった片桐はいりさんのコラム、さらにプラネタリムらしくDJによる心地よい音楽の中で、天井にはコレクターさんからお借りした昔の映画広告の映像を投影しました。ご来場いただいた皆さんからのメッセージも、ぐっときました。

さらに1日限定のパスを発行して映画館3館を自由に撮影してもらう試みも。(リーフレットはプラネタリウム営業時の実物チケットをモチーフに!)貴重な映写機が現役で稼働している映写室も特別に公開してもらいました。ひとりでも多くの人のアルバムに、この映画館の姿が残っていますように。

コマトラで行われたトークライブ第1部は、静岡の映画館街を見守り続けている斉藤隆さんをゲストにお迎えしました。斉藤さんは静活で42年間お勤めされた後、自ら「静岡映画館物語」を発刊。映画館に限らず映画そのもの、そして街についても大変深い知識をお持ちの、まさに「語り部」です。(斉藤さんのお話、はっきり言って1時間では全然足りませんでした!)

江戸時代からエンターテイメントの街として栄えてきた七間町。芝居小屋から始まり、世界で映画が発明されて2年後には映画が上映された街。静岡の中心街として人々の心を癒やし続けてきた、と斉藤さん。

全国的に見ても大規模な「映画館街」で、しかもそれが未だにちゃんと残っていてだからこそ看板職人さんたちの技術も全国レベルで高かったとか、あのスーラの壁画なんて、ものすごい手間をかけてつくられた文化的遺産だったりとか。そんなエンターテイメントのDNAを持った映画館街と、そこに集ってきた人々が育んできた文化がなくなるということが残念でならないという斉藤さんの正直な思い。これから街は姿を変えていくけれど、その先にできるものが、これまでの延長線上にあるものであってほしいと願っておられました。

さらに一点集中型の街作りは、これからの高齢化社会には向かないというお話も。よくピンピンコロリと言うけれど、コロリといくためにはピンピンしていることが大前提。まさにイベントのテーマである「LIVE TODAY」。そのために心に潤いや豊かさをもたらす文化が必ず必要なんだということ。その役割を担ってきたのが、この街でいう映画館だとしたら、これからの街にこそ、そのような存在が必要だという言葉が印象的でした。

9.11以降、さらには3月の大震災以降、私達は、ここで価値観の方向転換が必要なことに気づき始めているはず。人 対 人という、つながりをもう一度見直してみること。効率だけにとらわれない、穏やかで少しだけ手のかかる営みを改めて考えてみること。この日、街の歴史の節目を目の前に、そのタイミングが「今」なのだと強く感じました。

そして、会場は再びピカデリー屋上へ。翌日、その役目を終える「静岡小劇場」にてトークライブ第2部+作品上映。ゲストはピンク映画の監督である荒木太郎さんと静活支配人の佐藤選人さん、そして進行役にスノドカフェの柚木康裕さん。小劇場といえば、ピンク映画。大人の男性のための劇場ですよ!

佐藤支配人の、最後は満席にして終わりたいという願いが届いたのか常連さんも、この日初めて小劇場に入った方も含めて会場はほぼ満席に。作品は2本上映。この日トークライブのゲストとしてお越しいただいた荒木監督の作品。どちらも、現代なのか昔なのか、一瞬わからなくなるようなノスタルジックな雰囲気を持った映像、雰囲気、台詞、演技。

あたりまえのことですが「ピンク映画」はれっきとした「映画」です。そして年に数本、予算の中で撮り、予算オーバーしたら監督が背負う。荒木さんはプロデューサー・監督・俳優、全ての役割をこなしながらミニマムなチームで撮影を進めるのだそうです。ロケ地として映画館が協力を申し出る理由もその辺りにあるのでしょう。実際、2本目に上映した作品は、なんとこの日の会場「静岡小劇場」を舞台に繰り広げられるラブストーリー!

プラネタリウム跡、小劇場、七間町や常磐公園。見慣れた風景がスクリーンを通すと違う場所のように見える、と柚木さん。この小劇場も、古くなった昭和からの建物も公園もピンク映画という独特の文化も、どこか哀愁や暗さを感じるいわば「淀み」。(という言葉を用いた監督)光がさせば影が生まれるように、世の中は多様です。私たちがそれを受け入れられる価値観を持つことが大切だと監督は話してくださいました。きっと街にも多様性が必要で、それこそが面白く、温かく、深い街を作るのだと、そんなことを感じたトークライブでした。

「映画の力を信じる人へ」というメッセージから始まり「また劇場に来てね」という声で幕を閉じるピンク映画。歴史を重ねた劇場の最後にふさわしい、素晴らしい作品でした。最後は小劇場とプラネタリウム跡にて記念撮影!この時間を共有した全員で、映画館への「ありがとう」を込めて。

思うのです。
斉藤さんが言った「DNA」や荒木監督が言った「淀み」は、簡単に消えるものではないはずだと。歴史はヒトゴトではなく、街の形が変わっても、そのルーツが消えることはありません。映画館が壊されてまっさらな土地になっても、また新しい街を作っていくのは、そこに暮らす私たちです。忘れずに、次へ進まなくては。


ー LIVE TODAY
斉藤さん曰く、哲学の行き着く先にあるかのようなコトバ。
思えばイベントの準備中、60年前に映画館に掲げられたこのコトバにずっと背中を押してもらっていた気がします。イベントの実現にご協力いただいた皆様に、心からお礼申し上げます。ありがとうございました。

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