しずおかのひみつ探し「し」編
※諸事情により記事の日付が2014年と表示されていますが、実際は2022年2月22日の記事です。
静岡の街で飲むのが好きな人たちなら大抵は知っている老舗ラーメン店がある。私の実家はこの辺りにあったので、深夜に行列ができる様子も見たことがあった。
常磐町の「川しん」だ。
この日のランチタイムも安定の満席だった。6人座れるカウンターと、4人だとちょっと狭い感じのテーブル。カウンター内では一人でお店を切り盛りするご主人が料理に集中している。
私はわざと遅めの時間に入り、ご主人に表の「し」の文字を拝借したい旨を伝えるタイミングを図ろうとしたが、全ての席は埋まっていたし、半分くらいの人はまだラーメンを待っていた。
ともかくカウンターに座りチャンスを待つ。
「マーボーください」
注文はお客さん自ら発信するスタイル。ちなみにお水も自分で取りに行く。
マーボーとは、マーボーラーメンのことである。川しんの一番人気は自分で味噌を溶くタイプの「味噌ラーメン」だが、このマーボーラーメンを一番と思っている人も少なくないだろう。
もくもくとラーメンを作るご主人。その時、ガチャッとドアを開けた新しいお客さんが満席を察し、言葉も交わさずすっと出ていく。・・・暗黙のルール。
ラーメンをすする音とフライパンを振る音、テレビから流れるオリンピックの中継が響く店内。そろそろ「し」の字のこと、言わなければ。いつ言えば良いのか。あの字は誰が書いたんですか。・・・聞く隙がない。今まさに8人分のラーメンを作っているご主人に聞けるわけがない。
そこへ
ガチャッ(店内満席とわかる)
すっ(去る)
まただ。
お客さんも慣れてる。
「はい、マーボー」
ようやくご主人の声を聞く。カウンター越しに大きな水色のどんぶりを受け取る私。一歩間違えば大惨事。このお店のペースを乱してはならないという使命感。息を合わせてえいっと引き取る。
そしてお待ちかねのマーボーラーメン。この時点で今日のミッションは忘れている。ふふふ。いただきます。私、これを食べると風邪が治ると親から言われて育った人間です。辛いし、あんかけで冷めないし、極細麺で食べやすいし、とにかく美味しいからそういうことなんだろう。まあ本当に風邪が治ったかは覚えてないけど。
食べ進めること10分。
ついにそのチャンスがやってきた!
まわりのお客さんは全員帰り、店内には私ひとり。営業を終えると突然気さくに話しかけてくれるご主人。オフモード。さっそく「し」を拝借・・・と用件を話す。突拍子もないお願いにも関わらず全く動じない。一緒に表に出て、お店の外に書いてある「川しん」の文字を見る。
「この字、ご主人の字なんですか?」
「看板屋が作ったの。おれの字ならもっと上手いよ・笑。」
優しくてお茶目な方である。
最後に店内のメニューを撮らせてもらった。今はコロナの影響で「ビール」の文字が隠してあるのが切ない。
微妙に少しずつ違う3箇所の「川しん」を見比べつつ店を去る。お腹は大満足。今度は味噌ラーメンにしよう。決めた。(実はカレーも美味しいよ)
#川しん #しずおかのひみつ