gd静岡 vol.36「代謝するまち」レポート
はじめに
●「うまれかわりの文化祭」って?
・駿府城公園の傍らに位置する旧静岡市立青葉小学校の学舎は、11年前に閉校した後も様々な団体の拠点として活用されてきましたが、ついにその役割を終え、歴史文化施設として生まれ変わるための取り壊しが始まります。
・たくさんの思い出が蓄積した場所を次のステージへ繋げていくために、卒業生だけでなく、静岡に暮らすみんなと一緒に校舎の最後を賑やかに見届けるべく、小さな文化祭「うまれかわりの文化祭」を平成30年6月17日に開催しました。
●「うまれかわりの文化祭」のどの部分をレポートするの?
この文化祭では、落書きできちゃう学校見学や体育館での音楽コンサートなど様々なプログラムを用意し、学校を舞台に、まちの変化と未来を考える1日にしました。本当は当日の様子を全てお伝えしたいところですが、ここではイベントの終盤、屋上のプールを舞台に行ったトークライブ「代謝するまち」の模様をレポートしたいと思います。
概要
●トークライブ、ざっくり言うとどんな感じ?
青葉小学校のあった場所は、神社、お屋敷、学校など、様々な姿と役割に変化し、時代の波に翻弄されながらも、その度に人々の思いを包み込み、代謝を繰り返してきました。今、学校から歴史文化施設に生まれ変わろうとしていることも、まちの代謝なのです。学校と明るく別れを告げ、未来のことを考えていくために、今回のテーマを「代謝するまち」にしました。
●ゲストはどんな人?
ゲストには、青葉小学校で最後の校長先生を勤めた松井誠司さん、歴史文化施設の展示の設計を担当する乃村工藝社の芦田光代さん、森誠一朗さん、中里耕治さんをお招きしました。
前半
・前半は、松井先生とともに、青葉小学校が統合・閉校する当時のことを振り返りました。
・松井先生に、青葉小学校の最後の2年間で校長先生をされたときに大切にしたことをお聞きしたところ、「子どもの気持ち」という回答をいただきました。2年後には学校がなくなってしまう、というときに、子どもたちが「さみしい」「いやだな」と気持ちが下向きになることがないようにしよう、ということが最大の課題だったそうです。
・しかし、子どもたちは遊ぶことにも学ぶことにも前向きで、それは杞憂に終わりました。青葉小学校で学ぶ子どもたちの変化に対する適応力を感じたとのことでした。
・その背景には、地域の人たちの力もあったようです。青葉小学校が無くなることを自分たちのこととして捉え、次に歩みを進むために想像力を働かせ、統合・閉校への道のりにみんなで取り組んできたからこそ、子供たちも明るく学校生活を送れたのでは、と松井先生は当時のことを振り返っていました。
・また、松井先生は、統合・閉校にあたり、「木遣り歌」の作詞をされていて、そのときの気持ちもお聞きしてみました。松井先生は、当時、1年生から6年生、そして地域の人たちも巻き込んで、次へのステップに繋がる何かがないかを考えていて、「木遣り歌」なら、みんながひとつになるシンボルとなる、と思い立ったそうです。「木遣り歌」は地域の人たちで歌い継がれてきたものでもあったので、練習には子供たちだけでなく、大人たちも参加しました。みんなが地域の仲間として声を合わせ、練習に取り組まれたとのことでした。
・「うまれかわりの文化祭」は、青葉小学校の卒業生だけでなく、その前身の城内東国民学校の卒業生も参加してくださり、とにかく明るく賑やかな場となっていました。統合・閉校してから11年たってもこれだけのエネルギーがある場になった背景には、青葉小学校の持つ、周りの人たちを大人も子供も関係なく巻き込んでいくパワフルさがあるのだということを、松井先生とのお話の中から感じました。
後半
・後半は、歴史文化施設の展示の設計を担当する乃村工藝社の芦田さん、森さん、中里さんを中心に新しくできる歴史文化施設についてお話いただきました。突然ハコモノができるのではなく、建物は人がつくっているのだということを実感しながら、青葉小学校のあった場所の未来について話しました。
・新しくできる歴史文化施設の展示は、「徳川家康公」を通して静岡の良さを知ってもらうことが核になる予定だそうです。「住みやすい静岡」「住んでみたい静岡」「住んで良かった静岡」といった視点で、今静岡に住んでいる人にも、静岡を訪れた人にも、静岡の良さが伝わるようにしたい、そんな言葉を森さんからいただきました。
・私は、歴史を学ぶというと、今ではない、遠い昔のことを学ぶように感じてしまうのですが、森さんのお話からは、自分たちの暮らしぶりを歴史から振り返ることができる、そんな展示になるような予感がしました。
・シズオカオーケストラも、歴史のことを自分のことと捉えるきっかけになればと「妄想まちあるき」という企画を行っているので、芦田さんや森さんたちの言葉とも、「歴史を”自分化”する」という視点で共感することが多くありました。
・設計する方々に全てを任せるのではなく、静岡に暮らす私たちも巻き込まれながら、一緒につくり(育て)あげていく施設になりそうですね。歴史文化施設だけで完結するにとどまらず、そこを拠点として様々な人が集い、歴史を自分のこととして捉え、新しいまちとのつながりが生まれていく、そんな未来がおぼろげながら見えてきました。
おわりに
・最後には、松井先生から「土徳」という言葉をいただきました。松井先生は、土地の風景や、そこに住む人たちの気質がひとつの力となり、人を育てていくことを「土徳」という言葉で現していました。
・「土徳」は、青葉小学校のあった場所に脈々と流れていて、まちの風景が変わり、人も変わっていっても伝わり続けるものがある。だからこそ、今回の「うまれかわりの文化祭」に多くの人に足を運んでいただき、エネルギー溢れる場をつくることができたのかなと思いました。トークライブの最後に、まちが代謝する中で、つながり続けていくものが見えた気がします。